何日も便が出ない、腹痛があるのに出そうで出ないなど、便秘になるとなかなか辛い思いをしますよね。食物繊維を取ってみたり、便秘に効く体操やサプリを試してみる方も多いのではないかと思います。
それでも改善傾向が見られない時はなるべく早く医師などの専門家に相談してみましょう。
病院に行って「便秘症」と診断されるにはどういう症状があるのか、また、腹痛などの症状がある場合、気を付けたい病気などについてご紹介します。
便秘ではないと思っていても、診断基準と照らし合わせると便秘症というケースもあるかもしれません。気になる方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
「便秘」とは何?
よく耳にする便秘という言葉ですが、実は「便が何日も出ない」だけでは「便秘」の定義には当てはまりません。
便秘とは、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」を言います。
排便時に強くいきむ必要があったり、前屈や腹部を圧迫するような体勢を取らなければ出せないような場合は、「快適に排出できない状態」に当てはまります。
たとえ毎日便が出ていても、量が十分でなく、快適に出ない状態であれば便秘かもしれません。日々の便の状態をしっかり観察するようにしましょう。
「便秘」の診断基準は?
便秘(便秘症)は、便秘の症状が存在し、検査や治療が必要な状態であると診断されるものです。この記事では、その診断基準について詳しく紹介していきます。
以下に示す2つ以上の症状が当てはまる場合、便秘症と診断されます。また、便秘症状が半年以上続いており、直近3か月間は次に示す症状が当てはまる場合、慢性便秘症と診断される基準となります。
4回に1回以上、強くいきむ必要がある
便意を感じてトイレに行き、座って軽くいきめば排便されるのが正常な状態です。
便通が悪くなり、4回に1回以上の頻度で強くいきまないと排便することができないという状態。
4回に1回以上、ころころした便、または硬い便が出る
健康な便は、
(1) 表面にひび割れのあるソーセージ状。(やや硬い便)
(2) 表面はなめらかで柔らかい。バナナ状、ソーセージ状、蛇のようにとぐろを巻く。(普通便)
(3) しわがはっきりわかる柔らかい半固形。(やや柔らかい便)
など、一般的に3タイプあります。
排便があったとしても、うさぎや鹿の糞のようなころころした便や、ソーセージ状であっても硬い便が出ると、便秘の症状の可能性が出てきます。
4回に1回以上、残便感がある
強くいきんだり、長い時間トイレに座っていてもまだ出る気がする、というのを残便感といいます。
こういった残便感が4回に1回以上の頻度であれば、便秘症を判断する一つの状態になります。
4回に1回以上、肛門が詰まった感じや排便困難感がある
いきんで排便できそうな感覚はあるのに、肛門に何か詰まっているような感じや、便が出せそうにないという感覚がある場合も、便秘症となる判断基準の一つです。
4回に1回以上、摘便などの介助が必要
直腸部分に硬くなった便が詰まっていると、自力でいきむだけでは排便できなくなることがあります。
そういった場合、指などで便を取り出す「摘便(てきべん)」や、いきむのに合わせて会陰部圧迫などの介助をすることがあります。
摘便や会陰部圧迫といった介助が必要になる頻度が4回に1回以上ある場合も、便秘症と判断される基準の一つです。
自発的な排便が週3回未満
便秘症状としてもっともよく聞かれるのが排便回数だと思います。
毎日便が出ないと便秘というわけではなく、1週間のうち自然に便意をもよおし、排便する回数が3回未満である場合にも便秘症と判断される可能性があります。
便秘の原因は?
便秘の原因は、「器質性」「機能性」「症候性」「薬剤性」の4つに分けられます。
ここでは「器質性」と「機能性」の原因について詳しく解説していきます。
器質性
大腸、小腸、肛門などに疾患があり、正常な排便ができなくなっているものを器質性便秘といいます。
器質性便秘には、腫瘍などによって大腸が物理的に狭くなる「狭窄性」と、大腸の狭窄はないものの、特徴的な形態変化の見られる器質的な疾患による「非狭窄性」とに分けられます。
① 狭窄性
狭窄性便秘の主な原因は、大腸がんや手術後の癒着、クローン病、虚血性大腸炎などです。
原因となる疾患によっては、強い腹痛や発熱、血便、下痢などの症状が見られることもあります。
② 非狭窄性
非狭窄性は、さらに2つのタイプに分けることができます。
(1) 排便回数減少型
排便回数が週に3回未満、もしくは、便が直腸に貯留することで腹部膨満感や腹痛などの症状がある場合は、排便回数減少型に分類されます。排便回数が週3回以上でも、排便量が十分でなく、腹部膨満感や腹痛などの症状があればこれに分類されます。
巨大結腸などが原因となります。巨大結腸とは、蠕動運動が弱くなることで便がうまく運べなくなる病気です。
(2) 排便困難型
排便回数、排便量は問題ないのに、排便時に十分量かつ快適に排出できず、残便感を感じる場合は、排便困難型に分類されます。
直腸瘤、直腸重積、巨大直腸、小腸瘤、S字結腸瘤などが原因となります。
機能性
大腸に問題はないのに、排便機能に何らかの障害があって便秘になっているものを機能性便秘といいます。
機能性便秘も、排便回数減少型と排便困難型に分けられ、さらに3つの分類に分けることができます。
① 排便回数減少型
(1) 大腸通過遅延型
大腸を通過するのに時間が掛かることで便の水分が吸収されて硬くなり、便秘になるタイプです。
腹部の膨満感が主な症状です。
大腸通過遅延型は、さらに特発性(原因不明)、症候性、薬剤性に分けられます。
症候性は、甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症などの代謝・内分泌系の疾患、神経や筋肉の疾患、便秘型の過敏性腸症候群などが原因となります。
薬剤性は、服用している薬の影響で大腸の蠕動運動を抑えられ、便秘症状を引き起こすものです。
(2) 大腸通過正常型
大腸通過正常型は、大腸の機能には問題ないにもかかわらず排便回数が減少するタイプです。
このタイプは、大きな疾患よりも生活習慣が原因となることが多く、経口摂取不足と、大腸通過時間検査での偽陰性などで便秘症状が出ていると考えられています。
生活習慣にあっては、適切な量の食事と食物繊維も含めたバランスの良い食事をすることが大切です。
② 排便困難型
(1) 大腸通過正常型
大腸の蠕動運動には問題はなく、直腸からの排便がスムーズに行われないタイプです。
便が硬いことによる排便困難・残便感が主な症状で、便が柔らかい場合はスムーズに排便できることが多いです。
このタイプは、便を柔らかくすることで症状が改善しやすいという特徴があります。
(2) 機能性便排出障害
機能的な問題によって、直腸から十分な排出ができなくなるタイプです。
症状は、排便困難・残便感などがあります。
骨盤底筋協調運動(腹筋に力を入れると骨盤底筋の力が弱まるという協調運動)障害や腹圧(努責力)低下、便意を我慢することで神経の感度が落ちる直腸感覚低下、直腸収縮力低下などが原因とされています。
危険な便秘がある?症状は?
便通が悪いことに慣れてしまったり、逆にあまり経験がない場合など、多少腹痛があっても流してしまうこともあるでしょう。しかし、ただの便秘だと思って放置していると、大きな病気を見落とすこともあり得ます。
気を付けたい便秘症状について解説していきます。
急な便通の変化~大腸がん~
今まで特に問題なかったのに、
・急に便秘と下痢が続く
・血便
・便が細くなる
・腹痛
・嘔気・嘔吐
などの症状が続く場合、大腸がんの恐れがあります。
腹部膨満感や腹痛~腸閉塞
便秘が長く続いていると、宿便が硬くなり腸閉塞(宿便性イレウス)となることがあります。
・腹部膨満感
・腹痛
・嘔気・嘔吐
などの症状がみられる場合は、早めに病院に行き検査を受けることをおすすめします。人によっては症状が軽い場合もあります。注意して観察しましょう。
便が出ないまま放置するリスク
便秘であっても体調に問題がなければ、市販薬や食事、運動でなんとか対処しようとする人も多いのではないでしょうか?
しかし、ただの便秘と軽く考えて放置せず、上記診断基準などを参考にして当てはまるものがあれば、一度医療機関を受診することをおすすめします。
ここでは、便秘を放置することによるリスクの一部を解説していきます。
痔
便秘が続くと便が硬くなり、排便時に肛門を傷つけ、切れ痔になったり、強くいきむことでいぼ痔になったりしやすくなります。
脱肛、直腸粘膜脱
硬い便を出すために強くいきむと、痔核の血管が膨れて肛門の外に出てしまうことがあります。これを脱肛といいます。
また、脱肛が繰り返されることで直腸の粘膜が外に出てしまい直腸粘膜脱につながる恐れもあります。
糞便塞栓症
直腸に便が溜まったままになると、便がだんだん硬くなり、摘便や器具を使った摘出をしなければ排便できなくなります。
硬くなった便と直腸の隙間から液状の便が出てくることがあり、下痢と間違われることもあります。
潰瘍、穿孔、腹膜炎
大腸に便が留まっていると、粘膜に炎症が起きることがあります。進行していくと潰瘍となり、さらに進むと大腸壁に穴が開く「穿孔(せんこう)」と呼ばれる状態になります。
大腸穿孔が起こるとそこから腹腔内に細菌が広がり、腹膜炎を引き起こすことがあります。
肌荒れ
長い間排便されないと、便の中の腐敗物質や細菌が増殖し、腸内環境が乱れることになります。
そうすると、腸の動きも鈍くなり腸内に有害物質が発生します。
この有害物質が腸内から吸収されると、血液に乗って全身に運ばれ、肌荒れやニキビなどの肌トラブルを引き起こすといわれています。
便秘の治療方法
便秘の治療法にはいくつか方法がありますが、それぞれ体質や既往歴などに合わせて医師が最適な治療方法を提示してくれます。
相性の悪い治療方法などももちろんありますので、ひどい便秘の場合は自己判断せずに、医療機関で受診するようにしましょう。
膨張性下剤
腸内で吸収されない薬剤を使い、便を大きく柔らかくすることで、自然に近い排便を促す治療法です。
習慣性はなく、効果は緩やかで、便秘症の治療で第一段階として試される薬剤でもあります。
浸潤性下剤(軟化下剤)
便の水分を増やして便を大きく柔らかくし、表面張力を低下させることで排便を促す治療法です。
膨張性下剤と同様、習慣性もなく、効果が緩やかです。
塩類下剤、糖類下剤
下剤として最も一般的に処方される薬です。腸内で水分分泌を促し、便を柔らかくすることで排便しやすくしてくれます。
効果が見られるまでは数日かかり、また、投与量の調整が必要になることから、以前処方されたものを自己判断で再利用するなどは控えるほうがいいでしょう。
塩化下剤には、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウムなど、糖類下剤には、D-ソルビトール、ラクツロースなどか主に処方されています。
刺激性下剤
先述の下剤に比べて効果が強力で、服薬により腹痛を起こすこともあります。効果が表れる時間は早く、頓服として処方されることが多い薬です。
市販されている便秘薬は刺激性のものも多く、常用していると下剤がないと排便できなくなることもあるため、刺激性下剤の使用には注意が必要になります。
浣腸
大腸や直腸の粘膜を刺激することで排便を促す治療法です。グリセリンが使われていることが多く、即効性があるため効果が高いのが特徴です。
浣腸剤は市販もされているので手に入りやすいですが、使用方法を誤ると直腸穿孔や溶血などを引き起こすことがありますので、一度医師の診断を受けて指示を仰いだ方が安心です。
バイオフィードバック療法、低周波電気治療
おもに機能性便排出障害の治療に適用されているのが、「バイオフィードバック療法」と「低周波電気治療」です。
バイオフィードバック療法とは、肛門にバルーンを入れて、肛門から排出する訓練を行い、肛門感覚を取り戻していくことで、自力で排便できるようにしていく治療法です。
低周波電気治療は、低周波の電気で肛門の神経を刺激することで鈍くなった感覚を戻す治療法になります。
まとめ
今回は、便秘で腹痛を起こしたり便が出ないことによるリスクなどについてご紹介しました。
便秘の原因には、食物繊維や水分が足りていないだけで生活習慣を改善することで良くなるものもあれば、大腸そのものの問題や大腸以外の問題であったりと、医師の診断や専門的な治療を必要とするものまで多岐にわたります。
たかが便秘、数日出ないだけ、と放置していると病気を引き起こしたり、また、思わぬ病気が隠れていることもあります。腹痛などの症状があれば、無視をせず病院で診察を受けるのが一番でしょう。
この記事を参考に、当てはまるものがある、便秘かも?と思った方は、一度受診してみることをおすすめします。