便秘は、本当につらいものです。排便がなかなかできないためにお腹が張るなど不快感だけでなく、
「便秘が続く、解消しない」
「なにか病気にかかっているのでは?」
などといった精神的ストレスに繋がります。
そのように、今、便の状態が悪く心配な方は、医師などの専門家に相談することをおすすめします。思わぬ病気が潜んでいるかもしれません。それと合わせて、自分でもできることに取り組みましょう。
この記事では、便通の悪化による精神的ストレスを少しでも軽くしていただくために下記のような情報をまとめました。
・便秘の仕組みと関連する病気
・便通悪化の対処方法
・タイプ別に起こりやすい便通のトラブルとその対処方法
・便通に関するよくある疑問とその答え
適切な『便通の改善方法』を身につけて健康的な生活を送れるようにしましょう。
目次
便秘の症状と原因 便秘が続くとどうなる?
まずは便秘の正しい定義やその仕組み等について解説します。
便秘の定義と診断基準
スムーズなお通じ、つまり『快便』は『快食』・『快便』と並ぶ健康のための三原則のひとつです。
快便では無い状態、つまり『便秘』について、日本消化器病学会関連研究会「慢性便秘の診断・治療研究会」が編集・発表した『慢性便秘症診療ガイドライン2017』では以下の様に定義しています。
「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」
さらに「便秘による諸症状があり検査や治療を必要とする状態」を『便秘症』と定義し、以下の診断が定められています。
便秘症の診断基準
6項目のうち、2項目以上を満たすと『便秘症』と診断されます。
① 排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
② 排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便である。
③ 排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
④ 排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
⑤ 排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
⑥ 自発的な排便回数が、週に3回未満である。
どうでしょう?いくつ当てはまりましたか?
さらに上記の症状が6ヵ月以上前から続き、直近3ヵ月間上記の症状を満たしていると「慢性便秘症」と診断されます。
便秘になると起こる症状
便秘になると以下のような症状が起こりやすくなります。
膨満感(お腹が張った状態)・腹痛
便秘になると腸内に便やガスが溜まり、お腹が張ることがあります。またそれによって腹痛を引き起こすこともあります。
残便感
残便感とは排便をしても、スッキリせずまだ残っているような不快感のことを言います。こうした『不快感』も「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」なので便秘に含まれます。
食欲不振や吐き気
便秘で腸の中に排泄物が残っていると新しく食べ物を腸に送り込むことが出来ません。そのため食欲が低下し、ひどい場合には吐き気をもよおすことがあります。
肌荒れや吹き出物
便秘になると本来、体外に排出しなければならない毒素などが体内に残り、それが留まり続けると毒素が体に吸収され、血液に乗って肌に運ばれて肌荒れや吹き出物となります。
頭痛・肩こり・めまいなど
便秘も頭痛や肩こりも自律神経が乱れると起こりやすくなります。自律神経のアンバランスによって便秘が起こっている場合、頭痛や肩こりも起こりやすくなっています。
痔・脱肛
便秘の時の便は水分が不足して固くなっていることが多いため、排泄時に肛門を傷つけて出血したり脱肛(直腸の一部が肛門の外に飛び出す状態)してしまう事があります。
便秘の原因
便秘が起こる原因はさまざまです。
食物繊維不足
便が正常に大腸を通過しているにもかかわらず排便の回数や排便量が少ない場合、食物繊維の摂取不足が便秘の原因になっていることが多いです。
食事量が極端に少ない(過度なダイエットなど)
ダイエットをすると便秘になりやすくなります。食事の量が少ないと便の量が不足し、腸の中に滞留しがちになります。便が腸内に長く滞留すると腸内で便の水分が吸収されて固くなり、排出しにくくなります。
またダイエット中は油分や水分の摂取も減り、パサパサの排出しにくい便になりがちです。ここに食物繊維不足が重なれば便秘の要因を自ら揃えているようなものです。
水分が不足している
水分の摂取が少ないと便秘になりやすくなります。便の約70~80%は水分で、残りは食べ物のかす、腸内の細菌や腸内から剥がれ落ちた細胞といった固形物です。
便の水分が不足すると便が腸内でスムーズに動くことが出来なくなり便秘に繋がります。水分をしっかりとることで、便がやわらかくなり排便しやすくなります。
ストレスによる自律神経の乱れ
自律神経と便秘には密接な関係があります。自律神経は交感神経と副交感神経のバランスで機能しています。
副交感神経が優位の時に腸の動きが活発になり、逆に交感神経が優位の時は腸が動きにくくなります。体にストレスがかかると交感神経が優位になり腸の動きが悪くなります。
腸の運動や筋力の低下
筋力低下が進むと腸の運動性も低下し、便秘になりやすくなります。腸は筋肉でできており、腸の筋肉が弱くなると、腸の動きが衰えてしまいます。
また、腸の周辺にある腹筋などの筋力が低下すると腸の筋肉も刺激されにくくなり、動きが鈍くなり、便秘になりやすくなります。
排便反射の低下
排便反射とは「排便したい」つまり便意が起こる仕組みの事です。直腸に便が溜まると脳に信号が送られ、便意をもよおし、同時に肛門を締めている括約筋が緩んで排便の体制が整います。
便意をもよおした時に排便しないことが頻繁だと排便反射の機能が低下し、便意が起こりにくくなってしまいます。
服用薬による副作用
便秘以外の目的で服用している薬剤によって便秘が起こるケースもあります。
慢性便秘症を起こす薬剤の例
・抗コリン薬
・向精神薬
・抗パーキンソン病薬
・オピオイド(麻薬性鎮痛薬)
・循環器作用薬
・利尿薬
・制酸薬
・鉄剤
・制吐薬
・止痢薬 など
消化器、内科器、神経系の疾患
何かしらの疾患によって便秘になる場合もあります。
便秘を起こしやすい病気の例
・糖尿病(自律神経障害を伴うもの)
・甲状腺機能低下症
・高カルシウム血症
・パーキンソン病 など
便秘の対処法
便秘の原因は生活習慣のほか、さまざまな病気が関連している可能性がるため油断できません。ここでは比較的症状の軽い便秘について自分でできる対処方法をご紹介します。
水分補給
便の水分が不足すると腸内で便の移動がスムーズに行われなくなります。厚生労働省によると人が1日に失う水分量は2.5リットルです。一方、食事などに含まれるものや体内で作られることで取り入れられる水分量が1.3リットルなので、それだけでは1.2リットル不足するとされています。
水の摂取量を多くするには一度に大量の水を飲むのではなく、こまめに水分補給する事です。また、入浴後、運動の後、朝起きたらコップ一杯の水、あるいはお湯を飲むなどの習慣を作る事が効果的です。
食生活
便のおおもととなる『食事』の改善は重要です。
食物繊維
食物繊維は便の量を増やしたり、食物繊維が含んでいる水分が便の硬さや量を改善してくれます。食物繊維をしっかり摂るには
・海藻
・果物
・発酵食品
・根菜類
・きのこ類
などが良いとされています。
不足している食物繊維を補うことは便通の改善に効果的ですが、摂取量が多いからと言って便通改善の効果が高いという相関は見られないとした報告があります。無理をして食物繊維を多量に摂る事より適正量を摂る事を心がけましょう。
腸内細菌
腸の動きを活発にしてくれる腸内細菌が注目されています。腸内には約100兆個もの腸内細菌が住んでいて腸の消化吸収・便を送り出す動きに関与しています。その働きを助ける腸内の善玉菌を増やすには
・ヨーグルトなどの乳酸菌
・発酵食品
・乳製品
・大豆製品
等がおすすめです。
適度な油分
植物に含まれる油分は便を柔らかくし腸内での移動や排泄をスムーズにしてくれます。おすすめの油はオリーブオイルや亜麻仁油で、これらの油が透析患者の便通の改善に有効であると報告されています。
その他便秘に良いとされる食べ物・飲み物
コーヒーの摂取量が多いと便通がスムーズという日本での研究発表や、海外ではプルーンを1日100グラム、3週間摂り続けることで便通が改善すると報告されています。
食事を抜かない
十分な量の食事を摂る事が必要ですがそれだけでなく、食事を抜かないことも重要です。
食事の量を保つことで便の量を確保するだけでなく、食物が胃に入ることで大腸が活発に動くようになります。これを胃結腸反射と言います。この働きで便が直腸に送られ、快便に繋がります。食事を抜くとこの機会を失う事になってしまいます。
例えば朝食を摂らない人が便通に悩んでいるなら朝食を摂り、1日3食を心がけましょう。
睡眠
質の高い睡眠を取る事は自律神経を正常に保つために重要です。睡眠不足になると交感神経が働いて便秘になりやすくなります。
運動
運動はあらゆる病気から身を守るための万能の手段とも言えます。適度に体を動かすことで
・腸や腸内の便の動きを促す
・運動によって自律神経も鍛え、ストレスへの抵抗力が上がる
・睡眠が深くなり睡眠の質が向上する
といった効果が期待できます。
特に便秘の解消においては腸の動きに影響する腹筋のトレーニングが効果的です。
他にも酸素を十分に利用した歩行、速歩、ジョギング、自転車のほか水泳など全身の筋肉を使った運動が良いとされています。
とにかく続けることが重要です。気軽にできる運動や習慣化しやすい運動を生活に取り入れましょう。
我慢しない
便意を我慢してしまうと便意が起こる「排便反射」が鈍くなって便秘に繋がります。できるだけ我慢せず、便意が起きたらすぐにトイレに行きましょう。
排便を習慣化する
排便を規則正しく習慣化することで便秘が改善するケースも見られます。例えば便秘がちな人は
・便意が無くても毎日決まった時間にはトイレに行く
・ウォシュレットを導入して排便前に肛門のマッサージを行う
など、規則正しい生活をしながら排便をルーティン化することでそれを促すことができます。特にご年配者の便通改善法としておすすめです。
排便時の姿勢にも配慮
排便時は膝を開いてしゃがんだ「蹲踞(そんきょ)」の姿勢が良いとされています。和式便器でしゃがんだ姿勢がそれに当たります。洋式便器に座る場合は足を置く台を使って膝を高くすることで蹲踞に近い姿勢を取る事ができます。
また前傾35度、ロダンの「考える人」のポーズをすると排便しやすくなります。
便秘薬について
便秘薬は市販薬であっても薬剤師や医師などの専門家と相談しながら服用することをおすすめします。
病院で対処
便秘は生活習慣に起因するものだけでなく、陰に病気が潜んでいる可能性もあります。血便や激しい苦痛、嘔吐などがある場合は勿論、便の状態が気になる場合は早めに病院で受診しましょう。
かかりつけ医に相談するのも専門医で受診するのも良いでしょう。、消化器内科や消化器外科、肛門科などで診てもらうことが出来ます。最近ではより専門的な便秘外来もあります。
タイプ別便秘になりやすい人とその対処法
便秘は病気や生活習慣のほか、以下のような体が特殊な状況の時に起こりやすくなります。要因と対策について簡単にご紹介します。
妊婦
妊婦は以下の理由で便秘になりやすい状態と言えます
・運動不足
・ホルモンバランスの変化
・つわりなどによる食事量と水分補給の不足
妊婦は通常に比べるとその活動が制限されますが、無理のない範囲で
・適度な運動
・ツボ刺激やマッサージ
などを行いましょう。また妊娠中は便秘だからといって自己判断での浣腸は厳禁です。浣腸は子宮の収縮を促進してしまうので医師と相談の上で行いましょう。
子供
小さいお子さんのなかにはトイレトレーニングによる精神的ストレスで排便を我慢して便秘になるケースがあります。
これはお子さんの性格(気質)による要因が大きいのですが、できるだけストレスを感じさせないように褒めたりご褒美を準備して自発的なトイレトレーニングを促すと良いとされています。
また、お子さんがすでに便秘がちな場合はトイレトレーニングは適切な治療が完了してから行うべきでしょう。
生理中
生理中はホルモンバランスの変化で便秘になりがちです。
・軽い体操やストレッチ
・食事による諸対策
・こまめな水分補給、特に起床時に水やお湯を飲む
生活リズムを整えつつ、上記の方法で対策しましょう。
まとめ
便秘の要因や対策についてまとめました。重要なポイントとして
・便秘の原因は生活習慣だけでなく、疾患、体質、体調の変化などあらゆる要因によって起こる
・便秘は重大な疾患のサインになる事もある
・ある程度の便秘は自分で対処できるが異常を感じたら早めに医師に相談するべき
といったことが挙げられます。便秘はその要因が多いことから頻繁に起こりがちでありながら油断してはいけないという事がお判りいただけたと思います。
普段は自己管理、そして異常を敏感に察知して適切に便秘に対処しましょう。