皆様は尿酸値と聞いてどのようなものか説明することができますか?尿酸値は痛風やメタボリックシンドロームなどの疾患と深く関連した検査項目になり、血液検査で測定される項目です。また、コーヒーを飲む習慣は抗炎症効果など、さまざまな良い効果があると言われています。本記事では、コーヒーを飲む習慣が尿酸値にどのように関わるのか解説してみたいと思います。
尿酸値とは
尿酸について、「痛風に関連したものだよね?」という漠然としたイメージはあるかもしれませんが、尿酸値は痛風以外にも臨床的な意義を有した検査項目になります。そこで、初めに尿酸値がどのようなもので、どのような食べ物に多く含まれ、どのようなメカニズムで増えるとされるのか、解説したいと思います。
尿酸が生成されるメカニズム
尿酸はプリン体が分解されて生成される代謝産物の一つとされています。プリン体は細胞の核にある核酸の主成分であるアデニンやグアニンとして存在しています。そのプリン体が肝臓で代謝されることで尿酸となります。
プリン体とは
プリン体と聞けば、あまり良い印象がないかもしれませんが、プリン体は運動をする時や細胞の代謝など、体や臓器にとって必要なエネルギー物質の一つです。干物やビールなどの食べ物や飲み物にも含まれている物質とよく知られていますが、体内でも生成されています。体内で利用されなかった余分なプリン体は肝臓で分解され、尿酸となり最終的には尿や汗、便などとともに体外に排出されます。
尿酸の基準値
尿酸値とは血液中に含まれる尿酸の濃度のことを指し、男性のほうが血清尿酸値の値は高くなると一般的には言われています。日本臨床検査標準協議会が定めた血清尿酸値の基準を多くの医療施設が採用していますが、男性が3.7-7.8ml/dl、女性が2.6-5.5ml/dlとされています。
その一方、性別や年齢を問わず、尿酸値が7.0ml/dlを超える場合は高尿酸血症、反対に尿酸値が2.0ml/dl以下の場合は腎性低尿酸血症と定義されています。高尿酸血症の割合は加齢とともに増加するとされており、男性は30-40歳、女性は閉経後の50-60歳代に多いと言われています。日本人の血清尿酸値の平均値は年々上昇しているとされ、生活習慣病の増加との関連も指摘されています。
尿酸が増える原因
尿酸の生成と排出のバランスが崩れ、血中の尿酸が増えることがあります。急激な体重増加や、激しい運動をした際に体内に大量のプリン体が作られると、それに伴って尿酸も増加すると言われています。また、プリン体を多く含む食べ物や飲み物を過剰に摂取した場合も、尿酸は増えることが知られれています。
尿酸値が高い食べ物
プリン体が極めて多く含まれる食べ物があるので尿酸値が気になる方は注意が必要です。プリン体は、細胞の核に由来するため、あらゆる生物に存在しています。プリン体が多いとされている代表的なものをお示ししますと、干しシイタケ、鶏レバー、カツオ、イワシ、アジ、サンマ、乾燥桜エビ、鰹節、煮干し、白子などが挙げられます。干物や乾物は乾燥させることによって、相対的にプリン体量が増えてしまうと考えられています。
尿酸値を増やさないためには
食事に気をつけ、アルコールの制限を行い、適度な運動を心掛けることが尿酸値をコントロールする上で重要であると考えられます。食事については、カロリーの取りすぎやプリン体の過剰摂取に気をつけることはもちろんのこと、十分に水分補給をすることも大切です。また、肥満の解消は血清尿酸値を下げる効果もあることが期待されるため、基本的な生活習慣を正すことが必要不可欠です。
高尿酸血症になると
高尿酸血症は、痛風や腎障害などの病因であることが知られており、血清尿酸値が7.0mg/dL を超えるものと定義されています。ここからは、高尿酸血症によって引き起こされる可能性のある疾患についてご説明したいと思います。
痛風、尿路結石
痛風とは、血液中に溶けきれなくなった尿酸が結晶となり、関節などの組織に沈着し炎症を引き起こす病気のことです。尿酸結晶が関節にたまって炎症が起こると、急激な痛みや腫れを伴う痛風発作を引き起こします。痛風発作は足の親指の付け根に生じることが多く、風が吹いただけで痛みが生じると言われるほど激烈な痛みを感じるとされます。
また、血清尿酸値が高いと尿のpHが酸性に傾いてしまい、尿路結石が出来やすくなると言われています。石が尿路に詰まることで、激しい痛みを引き起こしてしまいます。
慢性腎臓病
慢性腎臓病とは、腎機能の低下や尿にタンパクが混じる症状など、腎臓の異常が3か月以上続いている状態のことを指します。糖尿病や高血圧、肥満などが慢性腎臓病の原因になると言われていますが、尿酸値が高いほど慢性腎臓病の発症リスクが高い傾向にあるといった結果もでています。詳細なメカニズムはまだ解明されてないものの、高尿酸血症が慢性腎臓病の進行にも関連しているという報告も増えてきているようです。
メタボリックシンドローム
高尿酸血症は、メタボリックシンドロームと高い確率で合併することが知られています。メタボリックシンドロームとは内臓脂肪が過剰に蓄積され、高血圧、耐糖能異常、脂質代謝異常などが組み合わさることにより、動脈硬化を起こしやすくなる病態を指します。心臓病や脳卒中などの重篤な疾患にも繋がってしまう可能性があります。日本では食生活の欧米化や飲酒量の増加に伴って、高尿酸血症も増加傾向にあるようです。
高血圧
高尿酸血症は高血圧とも高頻度に合併します。尿酸値の高い状態は全身の血管に炎症を起こし、血管が広がりにくくなってしまうため、血圧が下がりにくくなります。結果的に高血圧を引き起こしやすくなると言われています。高血圧が持続すると動脈硬化が進行し、脳卒中や心筋梗塞などが引き起こされる可能性があります。
糖尿病
糖尿病は血糖値が慢性的に高い状態であり、網膜症、腎症、神経障害などの重篤な合併症を引き起こしてしまう可能性がある疾患です。
糖尿病と尿酸値の関係を見ると、メタボリックシンドロームが進行するにつれ尿酸値は上昇しますが、進行して糖尿病の状態になると一旦低下します。さらに進んで糖尿病腎症となると尿酸値は再び上昇するように、糖尿病の進行の過程で変化するというデータもあります。
脳卒中、心臓病
尿酸値が高い方は、脳卒中や心臓病にも注意が必要です。上記のように高尿酸血症はメタボリックシンドロームや高血圧などの生活習慣病と深く関わっています。これらの疾患を放置してしまうと、動脈硬化が進んでしまい、脳卒中や心臓病などを引き起こす原因になる可能性があります。
また、尿酸値を抑える治療を行うことで、心血管イベントの発症リスクを抑える効果があると報告されています。
コーヒーと痛風の関係性について
コーヒーと痛風についての関係性にも触れてみたいと思います。
痛風の発症リスクを下げる
痛風は高尿酸血症の方が陥りやすい疾患で、血液中の尿酸結晶が関節などの組織に沈着し炎症を引き起こしてしまうものです。現在日本では生活習慣病の増加に伴い、痛風患者も増えているとされますが、実はコーヒーを飲むという習慣が痛風の発症の可能性を抑えるという報告がなされています。
日本人15万人以上を対象にコーヒーの飲用習慣と痛風発症リスクの関係を調べたところ、コーヒーを飲む習慣によって痛風発症のリスクを軽減する可能性が高いことが研究により明らかになっています。
痛風対策のため、日常的にコーヒーを飲むという簡単な習慣を取り入れてみるのも良いかもしれません。
コーヒーと尿酸値減少に関して
コーヒーが痛風発症の可能性軽減に繋がるということで、「コーヒーを飲めば尿酸値も下がるのでは?」と思ってしまうかもしれませんが、コーヒー摂取と尿酸減少の因果関係は明らかとなってないようです。
上記研究では、コーヒーを飲む習慣と血清尿酸値、そして痛風の発症というそれぞれの因果関係について検討していますが、習慣的なコーヒー摂取は、血清尿酸値の変動とは関ないと述べられています。そのため、痛風発症は尿酸値の上昇とは異なった生理学的メカニズムも存在すると想定されています。
コーヒーが痛風のリスクを下げる要因
コーヒーにはポリフェノールが豊富に含まれており、抗炎症効果があることは先にお示しした通りですが、痛風も尿酸結晶が関節などの組織に沈着し、炎症を引き起こすものです。そのため、コーヒーが抗炎症効果を発揮することによって、痛風の炎症を抑えてくれる可能性も考えられますが、上記のようにポリフェノールを多く含むコーヒーの摂取量と尿酸値との関連は見出せておりませんので、今後より詳細な痛風発症のメカニズムが解明される必要があると言われています。
痛風対策にオススメのコーヒーの飲み方
低プリン体食品の一つである乳製品を組み合わせることをおすすめします。乳製品もまた痛風の発症の可能性を軽減してくれる効果が認められています。乳製品の中でもコーヒーと組み合わせる場合は低脂肪牛乳が良いとされます。
また、1日に何杯コーヒーを飲むのが痛風対策に効果的なのか検討した研究(対象者は女性)では、1日2杯以上日常的に飲むのが望ましいとされています。ただし、人によってコーヒーを2杯も飲むと気分が悪くなるという方もおられると思いますので、体調に合わせた形で無理のない範囲で行うのが良いでしょう。
痛風対策に適さないコーヒーの飲み方
コーヒーにミルクや砂糖を多量に入れるのはあまりおすすめしません。糖分を摂取しすぎると、糖尿病や肥満などの生活習慣病になるリスクが高まってしまうからです。上記したように、高尿酸血症と糖尿病は密接に関わっているため、糖尿病のリスクが上がることは高尿酸血症のリスクも同時に上げてしまう可能性があります。そのため、コーヒーに砂糖を入れる際は、少なめを心がけましょう。
コーヒーその他の効果とは
コーヒーと痛風との関連性について紹介しましたが、ここからはコーヒーを飲むその他の効果について着目してみたいと思います。
抗炎症作用
コーヒーの成分の中には、覚醒効果のあるカフェインだけでなく、ポリフェノールも豊富に含まれていることがわかっています。ポリフェノールの抗酸化成分は抗炎症反応を示すことが知られており、実際にコーヒーを習慣的に飲むことで炎症性病変の発症リスクを抑えるという結果がでています。また、コーヒー成分には炎症性のサイトカインの産生誘導を抑制してくれる効果があることも報告されています。
炎症は体の再生など、生体を守る生体メカニズムの一つとしての役割もありますが、慢性的に続く炎症は生活習慣病の発症と関連していることもわかっています。コーヒーを日常的に摂取することで、日々生じる炎症反応を抑制することができれば、炎症によって生じる生活習慣病の予防にもにつながる可能性があると考えられます。
抗酸化作用
コーヒーに多く含まれているポリフェノールには強い抗酸化作用があり、活性酸素の発生とその働きを抑えてくれる役目があります。活性酸素は体の中で起こる代謝の過程で、発生してしまうものですが、その活性酸素は炎症や生活習慣病などの引き金になるとされています。そのため、ポリフェノールを豊富に含むコーヒーの習慣的摂取により、日本で増加している生活習慣病の予防にも期待できると考えられています。
自律神経の働きを高める
コーヒーに含まれている代表的な成分の一つであるカフェインには、交感神経の働きを高めてくれる効果があります。交換神経が刺激されると、私たちの体は覚醒状態となるため、目覚めの時や、仕事、集中したいときに効果を発揮してくれます。また、コーヒー摂取は食後の胃運動の活動を高めてくれる効果も期待できます。
その一方で、コーヒーの飲み過ぎでカフェインを過剰に摂取してしまうと、自律神経の乱れに繋がってしまい、自律神経失調症の原因にもなる可能性があります。そのため、コーヒーの飲み過ぎにはくれぐれもご注意ください。
脂肪燃焼効果
コーヒーに含まれるカフェインやポリフェノールには、脂肪を分解し燃焼する効果があると言われています。
コーヒーを飲むことによって交感神経が刺激され、脳が脂肪代謝を促すよう働きかけ、脂肪燃焼を高めてくれるということもわかっています。またカフェインと運動を併用すると、より脂肪燃焼効果が高まるとも言われています。
胃の働きを活発にする
上記のようにコーヒーに含まれるカフェインは自律神経や胃運動を活性化する効果があります。そのため、健康な人が食後に適量のコーヒーを飲むことで、胃の運動が促進されて消化が進む効果があるとも言われています。
リラックス効果
256人の若い女性を対象にした研究では、コーヒーが好きと回答した68%の人が、コーヒーを飲むとリラックスできると回答しました。また、80度で抽出したコーヒーは、65度または95度で抽出したコーヒーよりもリラクゼーション効果が大きかったという事です。
リラックスしたいときにコーヒーを飲むのは効果的かもしれません。
まとめ
尿酸値が上がると痛風やメタボリックシンドロームに繋がる可能性が指摘されており、コーヒーは尿酸値と関係なく、痛風の発症リスクを減少する効果が期待されています。尿酸値を上げないよう生活習慣を正すことが重要ですが、痛風対策のために、コーヒーを飲む習慣を取り入れても良いかもしれません。