健康診断などで血液検査をしたときに気になる項目の一つは「血糖値」ではないでしょうか。
血糖値が高いとなんとなく体に良くないということはわかっていても、具体的にどれぐらい高いと危ないのか、そもそも血糖値とは何を意味するのかなど、知らないことも多いと思います。
今回は、そんな血糖値の基準値や、基準値の範囲外になったときのリスクなどをご紹介します。
目次
「血糖値」とはなに?
「血糖値」と聞くと、血液中の糖の量や濃度という漠然としたイメージは持っていると思います。
ここでは、「血糖値」とはどういう値を指しているのか、「血糖」とは何か、どのタイミングの血液を調べるのかなどについて詳しく解説します。
血糖値は血液中のブドウ糖の濃度のこと
血糖値とは、血液中のグルコース(ブドウ糖)の濃度を表したものです。食後高血糖の測定は、通常食後2時間ぐらいで行います。
グルコース(ブドウ糖)は、人間が生命活動を行う上で必要なエネルギー源であり、特に脳のエネルギーとなるのはこのブドウ糖のみなので、血糖値が低くなると、集中力や記憶力が落ちたり、注意力が散漫になるなどの症状が見られることもあります。
おもに、でんぷん、麦芽糖、ショ糖、乳糖などを構成する単糖類で、脂質や炭水化物より早く分解されるため非常に吸収されやすく、エネルギー効率がいい成分でもあります。
吸収された後は血液中に血糖として流れ、インスリンにより濃度をコントロールしています。
血糖値が高い状態になるとインスリンによりグリコーゲンや中性脂肪に変え蓄えられます。
血糖値の基準値は?
血糖値が高いと言われると真っ先に思い浮かぶのは糖尿病ではないでしょうか。生活習慣病のひとつとしても広く認知されており、食事制限や投薬治療、甘いものは食べられなくなる怖い病気というイメージがあると思います。
しかし、「血糖値が高い=糖尿病」というわけではありません。
ここでは、血糖値の基準値と、血糖値が高い状態及び血糖値が低い状態について詳しく解説していきます。
血糖値の判定
血糖値は、空腹時血糖値や経口ブドウ糖負荷試験という検査から3つの区分に判定されます。経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)とは、75gのブドウ糖を摂取して、その前後の血糖値とインスリン値の変化をみる検査です。
糖尿病型:空腹時血糖値126mg/dl以上またはOGTT2時間値が200mg/dl以上のどちらかを満たす。
正常型:空腹時血糖値110mg/dl未満かつOGTT2時間値140mg/dl未満を満たすもの。
境界型:正常型にも糖尿病型にも含まれないもの。
高血糖とは
高血糖とは、血糖値が高い状態のことを言います。
単純に血糖値が高い状態であるので、高血糖だからといってすぐに糖尿病などと診断されるわけではありません。
しかし、血糖値が高いことで糖尿病のリスクが高まることはもちろん、循環器系や血管系の疾患の発症リスクも高まることから注意が必要ではあります。
空腹時血糖値が100mg/dL以上またはHbA1c(糖化ヘモグロビン)が5.6%以上を特定保健指導の基準値と定めています。
近年では、空腹時の血糖値が正常範囲内であっても、食後2時間経過後も血糖値が高値を維持している「食後高血糖」が、糖尿病の予備軍、動脈硬化のハイリスク因子として注目されています。また、空腹時血糖値が110mg/dL以上になると食後高血糖の可能性が高いため、メタボリックシンドロームの診断基準の一つとして110mg/dL以上を高血糖と定めています。
低血糖とは
低血糖とは、血糖値が必要以上に低くなっている状態を言います。
人は、血糖値が下がるとグルカゴンといったホルモンなどの働きによって蓄えられているグリコーゲンをブドウ糖に分解し、エネルギーに変換します。この時、交感神経が活発になり、アドレナリンなどの分泌も盛んになります。すると、動悸やふるえ、発汗、吐き気などの症状が見られることがあります。
特に、脳はブドウ糖のみをエネルギーとして使っているため、低血糖状態が続くと集中力がなくなったり、あくびが出たりといった中枢神経症状が見られるようになります。
低血糖の診断は、低血糖の病状がある無しに関わらず、血糖値が70mg/dl未満であることや血糖値が70mg/dl以上であっても、低血糖の症状が見られる場合です。
血糖値が基準値を上回ることによるリスク
血糖値が基準値を上回ることで考えられるリスクにはどういったものがあるのでしょうか?
懸念されるものの中で、リスクが高いと思われるものをピックアップして解説していきます。
糖尿病及びその合併症
血糖値が基準値を大きく上回るような場合、またその状態が続いているような場合は、まず糖尿病の可能性を考えるでしょう。
糖尿病とは、インスリンが正常に作用せず、血糖値の上昇を抑える耐糖能が低下することから、慢性的な高血糖状態が続く病気です。
糖尿病になると尿から甘いにおいがしたり泡だったりすることが知られていますが、医療医官では空腹時血糖などを測定する血液検査によって診断されます。
インスリン分泌細胞が破壊されることでインスリンが分泌できず、自己注射が必要となる1型糖尿病と、遺伝や生活習慣によって発症する2型糖尿病があります。また、特定の疾患や妊娠によって糖尿病と診断されることもあります。日本では2型糖尿病患者が多く、疑いがあるものも含めると成人の6人に1人は糖尿病患者と言われています。
糖尿病になると、その合併症にも注意が必要になります。
急性合併症
・糖尿病ケトアシドーシス:血糖からエネルギーを補給できないことでエネルギー不足と判断した脳が、脂肪を分解することエネルギーを補おうとします。すると、分解によって出たケトン体が血液中に増え、血液が酸性になることで高度の脱水になる病態です。ほとんどは1型糖尿病で起こります。
・高浸透圧高血糖症候群:この病気の主な症状は、脱水症状や精神状態の変化にも現れ、軽い錯乱や眠気、昏睡など様々な状態が見られます。原因としては糖尿病の治療薬の中止であったり、 感染症などからの身体へのストレスなどです。ほとんどの場合2型糖尿病で発症します。
細小血管症
・糖尿病神経障害:血流の低下や、末しょう神経の代謝異常によって感覚神経・自律神経・運動神経・脳神経などに異常が見られる状態です。腱反射がなくなったり、痛覚や触覚などの感覚が鈍くなったりします。
・糖尿病網膜症:糖尿病患者で網膜の毛細血管に問題が生じると、糖尿病網膜症と呼ばれる病気につながります。これは視力低下や失明の原因で、日本では失明の3番目に多い原因です。しかし、管理や治療の改善により、最近ではこの病気の合併症が減少傾向にあるといわれています。
・糖尿病腎症:糖尿病で高血糖が続くと、血管が傷つき、糖尿病性細小血管症が起こり、腎臓の機能を低下させる糖尿病性腎症が現れます。初期は症状がなく、進行するとむくみや高血圧が現れ、最終的には人工透析が必要になることがあります。
動脈硬化およびその合併症
高血糖が慢性的に続くことで心配なのは、動脈硬化などの「大血管症」と言われる疾患類です。
動脈硬化が進むと、以下のような合併症のリスクが高くなります。
・心筋梗塞:心臓の血管が詰まったり細くなることで血流が滞り、十分な酸素や栄養がいきわたらず心筋が壊死する病気です。
・脳梗塞:脳内の血管か詰まったり細くなることで血流が滞り、十分な酸素や栄養がいきわたらず脳細胞が壊死する病気です。
・抹消動脈疾患:手足の動脈硬化が進行することで、足先の冷え、しびれ、歩いていると足が重く感じ歩けなくなるなどの症状を引き起こします。
・壊疽:抹消動脈疾患が進行すると、十分な酸素と栄養がいきわたらず細胞が壊死します。じっとしていても痛みを感じる場合は高度虚血、潰瘍ができたり壊疽になると重症虚血となります。
血糖値が基準値を下回ることによるリスク
高血糖は命にかかわるリスクがあるため、多くの人が気をつけるでしょう。しかし、逆に血糖値が基準値を下回る場合には、どのようなリスクがあるのでしょうか?
低血糖症
血糖値が基準値を下回る場合のおもなリスクは低血糖症です。しかし、低血糖症も命に係わる深刻な状態になることもあり、決して軽視することはできません。
一般的に50mg/dL以下になると低血糖と診断されますが、70mg/dL以上であっても低血糖症状のある場合や、低血糖症状がなくても70mg/dLより低い場合は低血糖症と診断されます。
血糖値 | 症状 |
70mg/dL以下 | ・発汗・不安感・脈が速くなる・手指のふるえ・顔色が悪くなる(青白くなる) |
50mg/dL前後 | ・頭痛・目のかすみ・集中力の低下・生あくび |
50mg/dL以下 | ・異常行動・痙攣・意識消失 |
低血糖症状が出た場合は、速やかにブドウ糖を摂取することで症状が改善されることが多いです。
軽度の場合は自分でブドウ糖を摂取できますが、意識消失などの重症低血糖の場合では周囲の人に助けてもらう必要があります。日ごろから周囲の人に「低血糖で倒れることがある」などの説明と対処をお願いしておくと安心です。また、対処法を書いたカードなどを財布や定期入れと言った常に身に着けるものに入れておくのもいいでしょう。
もし、周囲の人が低血糖状態になり意識がなくなった場合は、水にブドウ糖や砂糖を溶かしたものを唇と歯茎の間に塗り付けて、救急車を呼びましょう。ブドウ糖を塗ってしばらくすると意識が戻ることがありますが、重症低血糖症になった後は意識消失を繰り返す可能性が高いため、医療機関への受診が必要です。
低血糖状態は薬の影響でなることが多いです。低血糖になりやすい方は、
・空腹時の運動を控える
・運転するときはブドウ糖などの飲食物を車に常備しておく
・食事前にインスリン注射や服薬をしない
などの予防が大切です。
血糖値を上げないための生活習慣
生命活動を維持する上では、ブドウ糖を補給し血糖値を上げてエネルギーを産生することが重要です。そこで血糖値を上げるホルモンは5種類ありますが、血糖値を下げるホルモンはインスリンだけです。
健康であればインスリンは十分に分泌され、血糖値の上昇もコントロールできますが、現代の栄養過剰の食事や運動不足による肥満、メタボリックシンドロームなどによって、インスリン抵抗性(インスリンに対する感受性が低下し、十分に作用しなくなる状態)が高くなっていると言われています。
血糖値が気になるときは、生活習慣の見直しも、血糖値を上げないための重要なポイントになります。
食事
血糖値をコントロールするために気をつける食事は、難しいことではありません。
・過食しない
・規則正しい食生活
・バランスの良い食事内容
・塩分、脂身を控える
腹八分目で好き嫌いをしない、おやつは食べ過ぎないという、子どものころから馴染み深い食事の約束事を守ることが、血糖値を上げない食事には重要です。
炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルのバランスを考慮した食事が摂れるのが理想です。毎食すべての栄養素をバランスよく含んだ食事を用意するのは難しいかもしれませんが、ある程度メニューを決めて、曜日などでルーティンを決めておくと実行しやすいと思います。
運動
血糖値をコントロールするには運動習慣も重要です。運動は、有酸素運動やレジスタンス運動が推奨されます。
糖代謝は運動後12~72時間持続するため、週に3日以上、ややきついと思える程度の運動強度で、1回20分以上続けるといいでしょう。運動は2日以上空けないこともポイントです。
ウォーキングであれば10,000歩ほどが適当とされていますので、一つの基準にしてみてください。
基礎疾患がある場合は、医師と相談の上運動内容を決定しましょう。無理のない範囲から徐々に運動強度を上げていき、負担の少ない運動習慣を取り入れてください。
有酸素運動:早歩きのウォーキング、ジョギング、水泳などの全身運動
レジスタンス運動:腹筋、腕立て伏せ、スクワット、ダンベル運動など
車通勤なら自転車に変える、電車通勤なら一駅分歩くようにするなど、日常的に取り入れられる範囲から始めてみてはいかがでしょうか。
レジスタンス運動なら、自宅でもできますしダンベルがない場合はペットボトルに水を入れると即席のダンベルとして使えます。
運動習慣は一度にたくさん行うことより、長期間、継続して行うことが重要です。
まとめ
今回、血糖値の基本や基準値について紹介しました。血糖値は高すぎても低すぎてもリスクがあるため、規則的な食事、バランスの取れた食事、過食の防止、運動などの健康的な生活習慣が重要です。
ご紹介したように血糖値は、重大な病気に発展する事もある重要な血液の指標です。心配のある場合は必ず医療機関で相談してください。
その上で、意識的な改善を始めることが大事です。最初から完璧でなくても、小さな一歩から始めることが大きな進歩につながります。