「血圧が上がると良くない」というイメージがあるかもしれません。しかし、なぜ血圧が上がり、どのような理由で高血圧が良くないとされるのか、あまり知らない方もいらっしゃるでしょう。そこで、本記事では血圧が上がる原因や高血圧の合併症、そして自分でもできる血圧対策について解説していきます。
血圧について
血圧がどのようなものなのか説明してください、と言われて的確に説明できる人は少ないでしょう。そこで、まずは血圧がどのようなもので、血圧測定で何がわかるのか解説していきます。
そもそも血圧とは何か
私たちの体内で日々流れ続けている血液は、酸素や栄養素を全身に届けており、体にとって必要不可欠な役割を担っています。血圧とは心臓から送り出される血液が血管を流れる際に、血管壁の内側にかかる圧力のことを指します。一般的に血圧とは動脈内圧のことを意味し、静脈内圧なら静脈圧、毛細血管内圧なら毛細血管圧と言われています。
最高血圧と最低血圧
最高血圧とは、心臓が血液を送り出すために、心臓の筋肉を収縮させた時の圧力のことで、収縮期血圧や最大血圧とも呼ばれています。一方で、最低血圧とは、心臓の筋肉が最も広がった状態の圧力のことを指し、拡張期血圧、最小血圧とも言われます。血圧測定ではこの最高血圧と最低血圧をそれぞれ測定し、最高血圧/最低血圧(単位はmmHg)という形で血圧の数値は算出されています。
血圧の基準値
血圧の値は変動しやすいものであるため、診察室血圧、家庭血圧、24時間自由行動下血圧で基準値はそれぞれ異なっています。高血圧の基準としては、診察室血圧は140/90mmHg以上、家庭血圧は135/85mmHg以上とされています。24時間自由行動下血圧については、130/80mmHg 以上とされていますが、昼間は135/85mmHg以上、夜は120/70mmHg 以上とされています。
血圧は常に変動している
血圧はさまざまな因子が複雑に関連しているため、その値は変動しやすいものです。日内変動もありますが、測定時のストレスによっても変動するため、高血圧の診断には診察室血圧測定と診察室外の血圧測定が必要です。健康な方の場合も血圧日内変動は見られるもので、一般的に、食事や運動、ストレスや睡眠、気温変化などで血圧は変動するとされます。また、夜寝ている時は日中の覚醒時と比較すると 10%から20%程度、血圧は低下すると言われています。
高齢者の高血圧については、その不安定さから測定条件によって大きく変動することが知られています。また、最近では、夜間の血圧が昼間とあまり変わらない(昼間の血圧に対して夜間の血圧の低下が0~10%)ノン・ディッパー型が増加している傾向にあると言われています。
血圧測定によってわかることとは?
問診,聴診,打診,触診をはじめ,主に心電図検査と心エコー図検査などの循環機能検査に血圧測定を加えることで、それだけではわからない血管の性状や機能、末梢血行動態の状態を推定することが可能となります。そのため、高血圧に伴う臓器障害の予測や治療効果判定などに有用とされています。
血圧の値が低すぎる場合、末梢組織の方まで十分血液を供給できていないことが推定されます。そのため、立ちくらみやめまい、頭痛、冷え性などの症状が出やすいです。反対に血圧が高すぎると、心臓、脳、腎臓、眼、血管などの臓器に重篤な障害をもたらす可能性があると言われています。
血圧が上がる原因
血圧がどのようなもので、血圧を測定する意義や、血圧が高すぎても低すぎても体にとっては良くない、ということがお分かりいただけたでしょう。ここからは血圧が上がる原因について詳しく解説していきます。
食塩の過剰摂取
さまざまな要因で血圧は上がり高血圧になるとされますが、その中でも日本人にとって重要な原因は食塩の過剰摂取と言われています。食塩と高血圧の関係はよく知られていますが、過去の調査では食塩摂取がほとんどない民族では高血圧になる人はいなくて、加齢に伴う血圧上昇もないことが報告されています。その一方で、日本人の食生活は食塩摂取が多く高血圧になる人も多いといわれているため、食塩制限は健常者にとっても、高血圧を予防するためには意義が大きいと考えられています。
肥満
肥満は高血圧の発症に大きく関連しています。高度肥満者が高血圧になる頻度は正常体重者の約3倍と報告されおります。さらに、日本においては30歳代男性の肥満者は非肥満者と比較し、高血圧の発症は 3.5 倍になるとされています。また、BMIは体重と身長から算出できる肥満度を表す良く知られた体格指数ですが、BMIの増加が大きいほど、男女ともに血圧の上昇が認められています。
加齢
加齢とともに血管の弾力性が低下し、血圧も上昇する傾向にあります。また、加齢と共に、血中のクロトー蛋白と呼ばれる抗加齢因子が減少すると言われています。その状態で食塩を摂取すると血管の収縮経路が活性化してしまい、その結果血圧が上昇してしまうという現象も、マウスを用いた研究で報告されています。
運動不足
運動不足も高血圧のリスクファクターとして知られています。そのため、習慣的な運動は減量だけでなく、心血管疾患のリスク減少にも有効であることが明らかで、具体的な運動療法についても細かく言及されています。また、運動不足は高血圧だけでなく、高脂血症や肥満、糖尿病にも関連しますので、日頃から適度な運動をするよう心がける必要があります。
アルコールの飲み過ぎ
アルコールの摂取も高血圧発症のリスクですが、その影響は人種によっても異なるとされています。特に欧米人と比べ、アジア人がアルコール摂取による高血圧発症のリスクが高いと報告されています。
宮城県で行われた研究によると、男女ともに飲酒量が増えるにつれ、高血圧発症リスクが上昇するという結果が出ました。飲酒習慣のない人に比べて、男性では1日あたりの飲酒量が1合以上から、女性では1合未満の飲酒量でも高血圧発症リスクが高くなるようです。
ストレス
さまざまなストレス要因によっても、ストレスは上昇してしまいます。職業性ストレスがより血圧を上昇させやすいことや、仕事の裁量権が低い場合は、それ自体が血圧を上昇させるリスクであることが報告がされています。さらに、かつて経験したようなことのないストレス下での過重労働は、血圧上昇を長期化させ、場合によっては過労死に至ってしまうことが示されています。
喫煙
喫煙は急性的に血圧と心拍数を上昇させることが知られています。健康な方でも習慣的喫煙は日中の覚醒時を中心に血圧を上昇させ、高血圧の一因となって心肥大などの臓器障害を引き起こす場合があります。さらに、喫煙習慣のある高血圧患者では、血圧の管理目標値の達成ができたとしても、冠動脈疾患のリスクが2倍から3倍高いとされています。
過労、睡眠不足
高血圧は過労や睡眠不足とも関連しています。健康な方でも一晩寝ない状態でいると、その血圧は10mmHgほど上昇すると言われています。また、睡眠不足で平均睡眠時間を3.6時間に限定した群と、睡眠時間が平均8時間の群を比較した結果、睡眠不足の群が翌日の平均最高血圧と心拍数が増加したという報告がなされています。
遺伝的要因
高血圧発症は遺伝的要因もあるとされます。高血圧の85~90%程度は、基礎疾患などのない、原因のわからない本態性高血圧と言われています。本態性高血圧は様々な要因からなる疾患であり、生活習慣などの環境的要因と10数個程度存在する高血圧関連遺伝子との相互関係から発症するものと考えられています。そのため、これらの遺伝子を多く有している人は、環境的要因にもよりますが、高血圧を発症するリスクがあると言えます。極めて稀ですが、遺伝性高血圧と呼ばれる単一遺伝子の異常により発症する高血圧もあると言われています。
血圧が上がることで起きる可能性がある合併症
食生活や肥満、運動不足など、生活習慣の悪化が血圧上昇の原因になってしまうことを示しました。ここからは、血圧が上昇し高血圧になることで起きてしまう、合併症について解説していきます。
脳血管障害
脳血管障害(脳卒中)には、脳梗塞と脳出血、くも膜下出血があり、いずれも高血圧が最大の原因であると言われています。慢性的な高血圧は動脈硬化を進行させ、やがて脳の血管が詰まってしまい、その先にある脳細胞に血液が送られなくなり、脳梗塞になるとされています。また、高血圧の程度が強い場合だと、脳の血管が破れて出血し、脳出血になったり、脳の血管の一部に動脈瘤ができてしまい、くも膜下出血に陥ることもあります。高血圧は重篤な脳卒中を引き起こしてしまう可能性があり、脳卒中予防のためには血圧を下げることは必須であると言えます。
心不全
高血圧は心不全を合併してしまうこともよく知られています。高血圧が続いてしまうと、心臓は慢性的に強い圧力で血液を駆出し続けることになるので、それに続発して心肥大を招いてしまい、心臓のポンプ機能が低下した結果、心不全が引き起こされると言われています。高血圧の合併症では脳血管障害による死亡が最も多いと報告されていますが、それに次いで心不全による死亡も多いとされ、予後は極めて悪いと言えます。
心筋梗塞、狭心症
血圧の上昇に伴い、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患の発症リスクも高まることが欧米のコホート研究で明らかにされています。日本人の場合、高血圧による心筋梗塞発症の割合は欧米白人の1/3から1/4と言われており、人種によって動脈硬化のパターンが異なると言われています。また、日本人の高血圧による心筋梗塞発症は、脳梗塞発症の割合の1/3から1/5程度とされています。
腎不全
腎臓は体内で血圧を調節する役割を担っているため、高血圧が続くと腎臓が傷害されやすくなるとされ、結果的に腎機能の低下や慢性腎臓病、腎不全の原因になりやすくなると言われています。また、血圧の変動が大きい場合、腎臓の中にある糸球体と呼ばれる濾過装置の役割を担う血管が傷害されることで、タンパク尿がみられることもあると言われています。
閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症の症状は血管が動脈硬化により、狭くなったりまたは塞がってしまうことが原因で、血流が悪化して生じる疾患です。主に下肢の太い血管に起こるとされます。過食、ライフスタイルの欧米化、運動不足などが原因で、近年日本では下肢閉塞性動脈硬化症が増えています。閉塞性動脈硬化症の発症は糖尿病が最も強い影響を及ぼしているとされますが、高血圧も危険因子の一つとして認識されています。
高血圧性網膜症
高血圧で血圧が高くなると、網膜内の血管にも圧力がかかり、眼底網膜が損傷する場合もあります。結果的に高血圧性網膜症になってしまう可能性があり、場合によっては重篤な視力障害を後遺症として残すこともあります。
高血圧の対策
高血圧になってしまうと、さまざまな重篤な合併症を引き起こすことがあり、場合によっては死に至る可能性もあります。そのため、日頃から血圧が上がりすぎないようにすることが大切です。最後に自分でできる血圧対策をご紹介していきます。
減塩
先にも述べた通り、高血圧の最大の要因は塩分の過剰摂取ですので、血圧対策において重要なのは、食塩摂取量の制限になります。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、目標とする1日の食塩摂取量は、成人男性が7.5g未満、成人女性が6.5g未満に設定されています。
日本の食生活は食塩が多くなりやすい傾向にあるため、全体的に薄味にすることが大切です。つけしょうゆ、かけソースを改めるだけでも効果があります。また、ラーメンなど麺類の汁を飲み干してしまうと、それだけで6g近い食塩摂取になってしまうので、要注意です。漬け物や味噌汁が好きな人も、なるべく1回の量を減らすように心がけましょう。
肥満解消
日本人は肥満を伴わない高血圧も半数程度あるとされますが、若年や中年男性では、肥満が原因の高血圧が増加していると言われます。肥満が原因の高血圧は、そのうち血糖やコレステロール、尿酸、肝機能にも異常を来し、メタボリックシンドロームにつながります。脳血管傷害などの重篤な合併症を引き起こす前に、肥満解消に向けての減量に取り組む必要があります。
お酒はほどほどにする
先に述べたように、日本人は男女ともアルコール摂取量が飲酒量依存的に高血圧発症リスクを高めることがコホート研究によって明らかとされていますので、高血圧の発症予防を考える場合、お酒の飲む量は控えるべきだと考えられます。
良質な睡眠
睡眠時間の短縮はそれ自体がストレスとなるだけでなく、常に血圧を増加させる要因となり、高齢者では慢性的な血圧異常の症状に陥ってしまう可能性があります。そのため、8時間程度の十分な睡眠時間を確保するようにしましょう。
ストレス解消
ストレスによっては血圧は変動することはよく知られたことであり、特に高度なストレスは慢性的な高血圧に繋がる可能性があります。日頃からストレスを溜め込まないよう、リフレッシュすることも大切です。
適度な運動
高血圧においては食事だけでなく運動療法もよく知られています。ただし、筋トレなど運動強度が強くて合計運動時間が短いものでは、降圧効果を認めないと報告されています。それに対して、軽い運動強度で長い時間運動したものでは、降圧効果を認めるとされています。そのため、激しい運動よりも軽い運動を適度に行うよう心掛けることが大切です。
まとめ
血圧は食塩の過剰摂取や肥満などの生活習慣で高くなってしまいます。高血圧が続くと脳血管障害や心不全などの重篤な合併症を招く危険がありますので、高血圧にならないよう、日頃から減塩や肥満にならない生活スタイルを送るようにすることが重要です。