『血糖値スパイク』をご存知でしょうか?
血糖値スパイクは糖尿病の原因となるだけでなく、認知症の進展にも関連がある事が最近の研究で分かってきています。
「隠れ糖尿病」とも呼ばれる血糖値スパイクは一般的な健康診断ではその発見を見逃してしまう事があるため、
- 「自分が血糖値スパイクになっていないか心配」
- 「発見方法を知りたい」
- 「予防策を心得ておきたい」
と考える方が多いのではないでしょうか?
この記事では『血糖値スパイク』が引き起こす病気やその原因、血糖値スパイクの発見方法や予防策について情報をまとめました。
メカニズムと予防策をしっかりと抑えて、予防と対策につとめてください。
目次
血糖値スパイクとは
血液中のブドウ糖の量を数値で表したものを血糖値といい、通常血糖値は食事や運動、ストレスなどによって絶えず変動しています。
血糖値の上がり下がりは正常な体であれば緩やかに変動するよう、体内でコントロールされています。
それは血糖値が急激に乱高下すると体調に異常をきたしたり、乱高下を長期間繰り返すことで糖尿病をはじめ様々な病気にかかるリスクを高めてしまうからです。
血糖値スパイクとは何らかの原因で食後の血糖値が急上昇、急降下してしまう事を指します。
スパイクとは「とげ」を意味します。血糖値スパイクと言う名前は血糖値のグラフが乱高下で「とげ」の様な形になることが由来しています。
食後1-2時間のうちに急激に140mg/dl以上の高血糖となる状態が血糖値スパイクで、日本人のおよそ1400万人以上が発症していると言われています。
血糖値スパイクは自覚症状がないケースがほとんどの為、発症している事に気が付きにくい事が「隠れ糖尿病」と呼ばれる理由のひとつです。
血糖値スパイクの要因
『血糖値スパイク=血糖値の乱高下』の原因はインスリンの分泌やその効果に問題が生じる事にあります。
通常、食事などによって血糖値が上昇すると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、その働きによって血中のブドウ糖は肝臓や筋肉、などへ行き渡ってエネルギーや脂肪として取り込まれ、血液中のブドウ糖は減り血糖値が低下します。
インスリンの分泌が減ったり遅れたりすると肝臓や筋肉などが一時的にブドウ糖を吸収出来なくなり、血液中に吸収された糖の行き場がなくなり血糖値を急上昇させてしまいます。
その血糖値が高くなり過ぎた状態に対処するため、体は大量のインスリンを分泌します。
すると今度は血糖値が急降下し、酷いと血糖値が下がりすぎてしまう場合もあります。
インスリンの分泌が減ったり遅れたりする原因はインスリンを作る膵臓の老化、肥満、体質、食べ過ぎや飲みすぎ、運動不足などがあります。
特に食事や運動などの生活習慣が原因の場合、体内でのインスリンの分泌量が多くなりがちです。
例えば糖質の多い食事ばかりだと膵臓が過敏になり血糖値を下げるためにインスリンを大量に分泌するようになります。
この事が習慣化され分泌量が常に過剰気味になると血糖値の上下動が激しくなり血糖値スパイクが起こりやすくなります。
他にも運動不足は筋肉量の低下を招きます。筋肉には血中から糖分を受け取って消費したり、筋肉内に蓄えたりする働きがあります。筋肉が少ないと血中の糖分の行き場が少なくなってしまい、体内で血糖値をコントロールする力が低下します。
また筋肉が少ないと体に対するインスリンの効き目が弱くなります。
これをインスリンの抵抗性の悪化と言います。
インスリンの効き目が弱いと体内でインスリンを大量に分泌しなければならなくなり、これもまた血糖値スパイクを引き起こす要因となります。
血糖値スパイクによって引き起こされる症状と病気
血糖値スパイクは重大な病気を引き起こす原因となります。
また無症状なケースにおいては長期間発見されないこともあり、自覚症状がないまま体内で症状が進行してしまう場合もあります。
血糖値スパイクによって起こり得る症状をまとめました。
糖尿病
インスリンの機能不全により血糖値の高い状態が慢性的に続く病気が糖尿病です。
血糖値スパイクはその一歩手前の状態、血糖値スパイクを放置すればやがて糖尿病に至る、とも言えます。
動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中
血糖値が急激に上がったり下がったりすると血管の細胞から大量の活性酸素が発生します。
活性酸素は細胞を酸化させて壊してしまう物質で本来、体に侵入したばい菌や病原微生物、がん細胞などを駆除するために体内で作られます。
しかし活性酸素が増えすぎてしまうと本来必要な体内の細胞も傷つけてしまいます。
血管中に大量発生した活性酸素は血管の内側で血管の内壁を傷つけ、さらに血管の外側ではLDLコレステロールと活性酸素が結びつき、酸化LDLとなって血管壁を傷つけます。
また酸化LDLが血管に付着すると体内の免疫機能によってそれが体内の「異物」とみなされて白血球が集まり酸化LDLを捕食することによって攻撃します。
攻撃した白血球の残骸は血管壁にドロドロの状態で溜まり、異物が付着した血管の内径は細くなり、さらに血管自体が弾力性や柔軟性を失って硬く脆くなります。
これらがやがて動脈硬化、血栓や血管の詰まりによる心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。
認知症
血糖値スパイクになるとアルツハイマー型認知症になる可能性があります。
血糖値スパイクが起こっている時は体内のインスリンが多い状態です。
体内でインスリンの多い状態が続くと、脳内で「アミロイドベータ」といわれる認知症の原因となるタンパク質が作られ、蓄積されます。
アミロイドベータは、神経の成長と修復に作用する物質で、通常は短期間で分解されて体外へ排出されます。
しかし多すぎるインスリンの影響でアミロイドベータが脳内に残ってしまうとそれが脳内の神経細胞を破壊し、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが高まります。
眠気とだるさ
食後などに眠気がやってくる、と言うのは体の正常な反応です。
しかし耐えがたい眠気など極端な場合は血糖値スパイクによる「食後の低血糖」を疑った方が良いかもしれません。
血糖値スパイクは血糖値の乱高下です。
血糖値が上がりすぎた後にインスリンが過剰に分泌され、血糖値が急激に下がることで「低血糖」の状態になる場合があります。
低血糖になると脳や筋肉へ糖が行き渡らなくなりエネルギー不足によって体がだるくなったり強い眠気を引き起こすことがあります。
また血糖値の乱高下による体の疲労も眠気やだるさの要因です。
頭痛
低血糖によって生命の危険を感じた脳はアドレナリンを分泌し、エネルギーの供給を促そうとます。
アドレナリンには血管を拡張させる作用があり、これが神経を圧迫して頭痛を引き起こします。
気絶
低血糖の状態が重篤になり、血糖値が30mg/dlを下回ると気絶する場合があります。
血糖値スパイクの発見
血糖値スパイクは「隠れ糖尿病」と言われています。
大きな症状が現れないまま長期間が経過し、知らず知らずのうちに体内で蓄積されたダメージが重篤な疾患を引き起こす可能性があります。
そのため血糖値スパイクは早期発見が重要です。
血糖値スパイクを発見するための知識をまとめました。
こんな人は血糖値の検査を
血糖値スパイク初期は症状が現れにくく、また重篤な症状が現れるまでは時間が掛かるため病院に行かずに放置しがちです。
また血糖値スパイクには通常の健康診断では発見しにくいという特徴があるため、セルフチェックによる早期発見が重要なカギとなります。
以下のチェックリストで血糖値スパイクのおおよその危険度がチェックできるので気になる方は自己診断してみてください。
以下の質問に『はい』か『いいえ』でお答えください。
Q1. 朝食を摂らない
Q2, コンビニ食を週3回以上利用する
Q3, BMI値が25以上※BMI値は 体重kg ÷ (身長m×2)で計算出来ます
Q4, 血の繋がった家族に糖尿病になった人がいる
Q5, 3食のうち1回以上早食い(10分以内)
Q6, 食後すぐに椅子に座ることが多い
Q7, 運動する日が週3日未満
Q8, これまでにダイエットにトライしたことが3回以上ある
Q9, 6時間以下の睡眠の日が週3回以上ある
上記8つの質問のうち、
「はい」の数が2つ以下の方⇒ 低リスク
「はい」の数が3~4つの方⇒ 中程度リスク
「はい」の数が5つ以上の方⇒ 高リスク
チェックして危険度が高い方は医療機関での検査をおすすめします。
HbA1C
HbA1cは一般的な糖尿病の検査や検診で使われる血糖値のチェック方法です。
HbA1cは過去1~2ヵ月間の平均血糖値をあらわす指標で、測定時点から過去にさかのぼって一定期間の平均的な血糖レベルをひとつの数値で表します。
一般的にはHbA1c 6.5%未満が正常レベルです。
ただし、HbA1cは血糖の一日の中での変動や日による変動の把握には向いておらず、短時間のうちに起こる血糖値の急変動である「血糖値スパイク」を見逃してしまう可能性があります。
糖負荷試験OGTT
空腹時とブドウ糖摂取後の血糖値やインスリン値を計測し、血糖値の変化やインスリンの分泌と効き具合を測定する試験です。
血糖値スパイクの起こる食事の前後に近い条件下で精密に検査するため血糖値スパイクの発見に適した検査方法と言えます。
OGTTのメリットは正確な糖代謝を知る事が出来ます。検査は医療機関で受けてください。
血糖自己測定SMBG
SMBGはSelf Monitoring Blood Glucoseの略で、自宅など医療現場以外の場所で簡易血糖測定器を自分自身で操作して血糖値を検査する方法です。
専用の穿刺器具で指先に傷をつけて血液を採取し、簡易血糖測定器で血糖値を測定します。
SMBGのメリットは好きなタイミングで血糖値の測定ができる事と他の検査に比べて低いコストで検査が可能です。
デメリットは血糖値のみしか測定できない事、測定の都度、手に針を指して採血をしなければならない事、測定の精度に若干のばらつきが出る事です。
持続グルコース測定CGM
近年使われるようになった測定方法で、24時間連続で血糖値を常時モニターし、1日の血糖変動の全体像が把握できます。
CGMは、お腹などに専用のセンサーを装着し、血糖値と近い動きをする間質液と呼ばれる体液中のグルコース濃度を24時間連続で測定し、1日の変動を検査します。
CGMであれば、見逃されがちな食後高血糖を詳細に調べることができます。
また糖負荷試験OGTTと同程度のコストで検査を受けられます。
メリットは夜間の低血糖などのチェックが出来る事、血糖のコントロールの質がかなり高い精度で観測出来る事です。
デメリットはセンサーを張り付けた部分がかぶれる場合がある事、実際の血糖値ではなく間質液の測定である事、受けられる医療機関が限られる事、などが挙げられます。
血糖値スパイクの予防と対策
ここまで血糖値スパイクについてその要因や引き起こす症状、発見方法などについてまとめてきましたが、何より大事なのは『予防』です。
血糖値スパイクの仕組みと発見方法を理解していただいた上で、その予防と血糖値スパイクの対策についてまとめます。
血糖値とは血液中のブドウ糖の量です。
『血糖値スパイク=血中のブドウ糖の量の乱高下』を抑えるためには
- 糖質の摂取と吸収のコントロール
- インスリンの分泌や効き目のコントロール
が重要です。
血糖値が上がりにくい食品を摂る
食べても血糖値が上がりにくい食品の特徴として、
- 糖質が少ない
- 食物繊維、タンパク質を多く含む
- 適度な脂質を含む
などが挙げられます。
糖質を多く含むものとして精白米、いも類やかぼちゃ、菓子類や清涼飲料水などがありこれらは摂りすぎない様に注意が必要です。
食物繊維やタンパク質を多く含む食品、脂質を適度に含む食品を積極的に摂るのがおすすめです。
これらの食品を多くとることで腸管内での糖質の吸収を緩やかにすることが出来ます。
ただしこれらの食品も摂りすぎは禁物です。
これらの食品を摂りすぎれば僅かに含まれる糖質も摂りすぎてしまう事になるからです。
また、食品と血糖値上昇の関連性はGI値(Glycemic index、グリセミックインデックス) という形で数値化されています。
GI値は高・中・低と分類されており、その中で低GI食品を積極的に摂り、高GI食品の摂取を控えることで血糖値の上昇を抑える事が出来ます。
低GI食品の他にも『食後の血糖値の上昇を抑える』と表示された特定保健用食品(トクホ)も有効です。
血糖値の上がりにくい食品を選ぶだけでなく『食べる順番』も糖質の吸収に大きく影響します。
糖質を多く含む食品は最初に食べると体内で真っ先に糖質が吸収されることになり、血糖値は急激に上昇します。
糖質の前に食物繊維やタンパク質、脂質を含む食品を食べるとその後に取り込む糖質の吸収も緩やかになり、血糖値スパイクの抑制に効果的です。
また、タンパク質や脂質、マンガン、クロム、リン、カリウムなどのミネラル分はインスリンの働きを助けます。
タンパク質と脂質はインスリンの分泌を促し、ミネラル分が十分に摂れている体はインスリンの効きが良くなって血糖値をコントロールする力が向上します。
また、酢は血糖値スパイクに有効です。食事と一緒に10~20mlの食酢を摂ることで血糖値の上昇を抑えるという研究データがあります。10mlより20ml摂る方が高い効果が期待できます。
糖質を控える事も大事ですが、あらゆる栄養素をまんべんなく摂ることが重要です。
「コレは食べてはいけない」と拒絶するのではなく、食べ方を工夫して幅広い食品を摂り、栄養バランスを整えるべきでしょう。
適度な運動と健康的な生活習慣
運動も重要です。運動は血中のブドウ糖を消費するので血糖値を下げる事が出来ます。
また運動によって筋肉が増えると、筋肉が糖を貯蔵する機能やインスリンの効果が高まって血糖値が下がりやすくなります。
インスリンの効果を高めて血糖値を下げるには有酸素運動と筋力トレーニングが良いとされています。
但し無理をず、継続させなければ効果が持続しません。少しの運動量でも毎日続けること、そして生活の中でこまめに動くことが理想的です。
またストレスや睡眠もインスリンなどのホルモンの分泌やその効き目に影響します。
ストレスのかからない規則正しい生活を心がけましょう。
まとめ
知らず知らずのうちに体を蝕む『血糖値スパイク』の危険性や対処法についてお伝えしました。
しかし高血糖により引き起こされる疾患は短期的に起こるケースは比較的なく、悪い生活習慣が長期間続くことで引き起こされる場合がほどんどです。
ですので「高血糖」や「糖尿病予備軍」という言葉にあまり過敏にならず、正確な情報と規則正しい生活で血糖値をコントロールし、必要な場合は医師のアドバイスを聞いて冷静に対処しましょう。